海外生活では意識的に漢字を子どものそばに〜言語科学の専門家に聞いてみた(3)〜

このブログを読んでいるみなさんの多くは、海外駐在生活でのお子さんの日本語の習得に関心をお持ちだと思います。

日本語を学ぶ、使っていく上でヒントになる情報を、少しアカデミックな視点からも探ってみましょう。このシリーズでは、マナまなBeeの教材制作にも携わり、言語科学の専門家であるツヅキさんに、言語の学習に関する素朴な疑問に答えてもらいます。

この記事は、「“言語を習得する”ってどういうこと?」から続く内容です。ぜひこれまでの記事もあわせてご覧ください。

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子どもたちは周りの景色から言語を学ぶ

― 漢字も言語のひとつとして捉えられますよね。生活の拠点が日本でなく海外の場合、漢字の学習にどんな影響が生まれるのでしょう?

 

前回までに、人は言葉と状況を結びつけることで、日常生活で使用できるレベルの言語能力を身につけるとお話ししてきました。漢字を学ぶ場合も、この原則は変わりません。それぞれの文字の形や音を覚えるだけでなく、それがどんな場面で使われるかを知ってこそ、喋ったり書いたりできるようになります。

多くの子どもは、学校で教わった漢字を暮らしの中で自分に定着させます。日本にいれば、身の回りの景色は漢字ばかり。その漢字がどこで使われているかを見て、文字と意味が結びつきます。

私の親戚の子は、小学校入学前からスーパーマーケットの広告の「牛乳」や「米」という字が読めていました。特別に漢字の学習をしてはいません。自分が「ぎゅうにゅう」だと認識しているものと、「牛乳」の文字がよく一緒に出てくるのを目にして、漢字の意味を捉えているのです。漢字に囲まれて生活していれば、このように自然と言語の学習が進んでいきます。

海外で生活していると、日常的に漢字に触れる機会が極端に減ります。漢字を学ぶ機会はつくれても、どのように使われるか見る機会も、実際に使ってみる機会も持てない。言語として漢字を習得する上で、大きなハンデを負っているといえます。使わないものを学ぶモチベーションを高めるのも難しいので、学習に後ろ向きになってしまう子もいるでしょう。

漢字がどのように身につくかを知ると、普段から身近にあるか否かがいかに大きな要因か理解できると思います。当たり前のように感じるかもしれませんが、日本にいると当たり前すぎて、意外な盲点になっているかもしれません。海外で子育てをしている保護者の方には、環境の違いの差を埋めるために、日頃から漢字に触れられる工夫をしていただきたいなと思います。

 

*プロフィール*

都築鉄平(ツヅキテッペイ)
名古屋在住の言語科学博士兼Semiosis株式会社代表取締役社長。
言葉がどのように習得され、コミュニケーションが生成されていくのかに興味があります。

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