“言語を習得する”ってどういうこと?〜言語科学の専門家に聞いてみた(1)〜

このブログを読んでいるみなさんの多くは、海外駐在生活でのお子さんの日本語の習得に関心をお持ちだと思います。

日本語を学ぶ、使っていく上でヒントになる情報を、少しアカデミックな視点からも探ってみましょう。このシリーズでは、マナまなBeeの教材制作にも携わり、言語科学の専門家であるツヅキさんに、言語の学習に関する素朴な疑問に答えてもらいます。

言葉を“知る”だけでなく、状況に合わせて“使う”力が重要

― みなさん、海外で生活しながら日本語を学ぼうとしています。そもそも“言語を習得する”というのは、どういう能力を身につけることなのでしょう?

ある動物園にバナナが欲しい時に「バナナ」と書かれたボタンを押せるサルがいます。このサルは、言語を習得していると言えるでしょうか?

答えはノーです。これは単に、バナナというモノと、「バナナ」という文字が紐づいているだけで、言語を習得しているとは言い難い。“言語を習得する”とは、言葉と“モノ”がつながるよりも、言葉と“コト”がつながるイメージをしてください。

例えば、私は韓国語を学んでいて、「寒い」という意味の言葉を知っていました。ただ、それは言葉を知っているだけで、状況に合わせて使いこなせるほど習得できてはいない状態でした。実際に、寒い日にその言葉を口にする韓国人を見て、「こういう状況で、こう使うのか」と理解し、自分も同じような状況で自然とその言葉が出てくるようになる。これが言語を習得した状態だと言えます。つまり、言葉を、適当な状況下において、意味を持って発せられるということですね。

いくつもの意味や用法をもつ言葉もあります。人は状況から判断して、適した意味、用法でその言葉を使うでしょう。正しい使い分けができれば、その言葉を習得していると考えられます。この積み重ねが、言語の習得へとつながっていくのです。

なにを持って言語の習得とするかは、ここまで説明した「意味や用法を理解し使える状態」のほかに、「単語ではなく文章を作れる統語的な力が備わった状態」と捉える見方もあります。議論が分かれる部分ではありますが、どちらも他の動物にはできない人間特有のものです。この記事では、前者にフォーカスしてお話ししました。

日本語の習得を目指す上でも、言葉を覚えるだけでなく、状況に合わせて使い分ける力が大切であるとぜひ覚えておいてほしいと思います。

*プロフィール*

都築鉄平(ツヅキテッペイ)
名古屋在住の言語科学博士兼Semiosis株式会社代表取締役社長。
言葉がどのように習得され、コミュニケーションが生成されていくのかに興味があります。

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